※なみだ茸事件
今から30年ほど前、大量の断熱材を取り入れた北海道の住まいで、床板が腐って「なみだ茸」という茸が大量発生。床が抜け落ちるという事件が発生しました。その数は三万戸とも五万戸とも。原因は言うまでもなく大量の室内結露の発生にありました。
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日本の住いを語る際によく取り上げられるのが、兼好法師の「住いは夏を旨とすべし」という言葉です。高温多湿の日本では本当に耐え難いのは夏の暑さであり、冬は局所的な暖房で十分にしのげるという思いが込められています。
実際かつての日本の住いは、窓は大きく取り、縁側を設け、床を高くするなど、非常に開放的でした。室内の仕切りは襖や障子で、開け放てば家の中が一つの広々とした空間になったのです。こうした住いでは、涼しい風が家の中を通り抜け、まさに「夏を旨」とした空間ができていたわけです。その反面、冬の寒さに対しては無防備でした。そもそも部屋ごと暖める「暖房」という概念はなく、寒いときは服を着込んで我慢する、というのが一般的な考えでした。
その歩みが変わり始めたのは、明治時代の終わりにガラス窓が普及しだしたこと。ここから住宅の密閉化の歴史が始まったのです。その後、市街地建築法(大正8年)や関東大震災によって住宅の基礎がコンクリート布基礎に取って代わり、さらに、ストーブの普及により、暖房効率を高めるために住いの密閉化がさらに加速したのです。
そして昭和40年代に、壁の内側にグラスウールを入れる、いわゆる内断熱工法(柱間断熱)が普及。「なみだ茸事件※」という象徴的な事件も発生しました。住宅の密閉化はアルミサッシやビニールクロスがその流れに拍車をかけ、その結果日本には換気不良の家が多数誕生することになったのです。
今から30年ほど前、大量の断熱材を取り入れた北海道の住まいで、床板が腐って「なみだ茸」という茸が大量発生。床が抜け落ちるという事件が発生しました。その数は三万戸とも五万戸とも。原因は言うまでもなく大量の室内結露の発生にありました。
日本の6月から9月にかけては、極めて湿度の高い気候となります。当然床下にカビの発生するリスクは高くなります。
グラフの数字は月を表しています。
こうした日本の住宅の中途半端な密閉化の流れの結果が、現在の耐久性に欠けた住いや、シックハウス症候群なのです。改めて言うまでもなく、欧米と日本では気候も環境も大きく違います。
冷暖房の設備も概念も無い時代に、日本の気候、風土で暮らす知恵と化学が「開放的」な家とすれば、冷暖房することが前提となった時代の家は、「閉じた」住宅でなければなりません。しかし、「閉じた」住宅は同時に中に住む人が暮らすのですから換気に優れた住宅でなければなりません。その為には、完全を目指した「気密住宅」が必要なのです。
日本の気候では、隙間だらけの中途半端な密閉住宅に結露やカビの発生するのは当たり前のことでしょう。現在の日本の住宅はこのま高気密の道を進むのか、あるいは昔の開放的な家に戻るのかという岐路にあり、本来気密化への180度の転換が必要であったのに、日本の住宅は、徐々に密閉化するという90度曲がった方向に進んでしまったのです。
高度成長期以降の日本の住宅産業をリードしてきたのが、プレハブ住宅メーカーです。プレハブ住宅とは「prefabrication house」つまり「前もって(pre)」「作り上げた(fabrication)」「住宅(house)」のこと。必要な部材を工場で生産し、現場ではそれを組み立てるという方式にすることで、低価格・短納期を実現したのです。
当然のことながら工業製品であるからには大量生産・大量販売が前提となります。そのためにメーカーは宣伝に力を入れ、特に人目を引きやすいデザインや内装をアピールしたのです。
もちろんそこに悪意があったわけではありませんが、結果的に何か問題が発生するたびに、本質的な問題解決をすることなしに、目先の対症療法でしのぐということが繰り返されてきたのです。例えば
もちろん消費者である住み手にも問題があります。そもそも住宅は立地や環境、家族形態、予算等によって異なるのですから住宅が、大量生産を前提とした工業製品であることは不自然です。しかし現在でも宣伝やイメージに惑わされ、「よく売れているメーカーの家だから大丈夫だろう」いう理由だけで家を建ててしまっているケースが珍しくはありません。
ユーザー自らが情報を集めたり、研究することもせず、一切をメーカーの設計者や営業担当者に任せてしまうケースも多く、これなどは一生に一度の買い物であるのに、あまりに不勉強と言えるでしょう。
住宅は家族が24時間そこで暮らし、本来ならば100年以上も住み継がれていくべきものです。それを思えばイージーな選択など、とてもできません。最も大切な財産の一つであり、大切な家族が安全・快適に生活するための場所であるとの認識をしっかりと持った上で、住いづくりに臨まなければなりません。